横井也有

かわゆき子にも旅はさせよといひ、恋は道ならぬ道もあれば、ふみ迷ふさのゝ舟ばし親もさけて、あだし心はいさ神とてもいさめずやはあらむ。さてしも世にたへぬすさびにて、身にこそ人のいましむべけれ、其くまぐまは尋わけてぞ物の哀もしる端なるべきを、歌にはもとよりもつぱらにして、荻の上葉に問はぬをうらみ、有明の月にわかれをかこつより、沖の石に涙をかけ、衛士のたく火に思ひをよそへて、たとへ雲かゝる高間の山も、なみよする高師の浜も、てにはの詞に品はかざれども、逢ふの・別るゝの・忍ぶぞ・うらむぞと、只一筋の情のみをいひて、女の男を思ふやらむ、男の女をしたふやらん、姿に千変の品はわかれず。